解説委員の眼

増田 明男

フジテレビ解説委員
増田 明男ますだ あきお

解説委員室リポーター、警視庁クラブ、外務省クラブ、外信デスク、ソウル支局長、ニュースキャスター、BSニュース編集長を経て、解説委員室解説委員。 北朝鮮・キューバ・シリア・パレスチナ・ペルーなど20カ国からリポート。

「開天節」の日に考える

2016/10/03

 国際社会で各国はそれぞれ、その国にとって1年で最も記念すべき日を「ナショナルデー」と定めている。国内で行う祝賀行事に合わせ、在外公館でも年に一度の最大の行事として、駐在国の要人や外交団などを招き、お国ぶり豊かな祝賀会を開催し、華やかなパーティ外交を展開する。
10月3日は、韓国のナショナルデーで、駐日韓国大使主催の祝賀会が、ことし(2016年)も都内のホテルで開かれた。韓国ではこの日が、朝鮮民族の建国を記した檀君神話に基づく建国記念日の「開天節」で、国民の祝日に指定されている。

ことしの祝賀会は、重苦しい空気が支配していた去年(2015年)とはうって変わり、ホテルの中で一番広い宴会場が開宴前から満員になる盛況ぶりで、招待客は一様に穏やかで、晴れやかな表情だった。
ことし7月に着任した李俊揆(イ・ジュンギュ)大使は、中国の程永華大使をはじめ、アメリカ・ロシア・カナダなどの外交団や日本の政財界リーダーら、およそ1,000人を前にあいさつした。その中で大使は、日韓国交50周年だったにもかかわらず外交関係が停滞した去年1年間を振り返り、ことしを「新しく始まる50年の元年」と位置づけた。そして、「これからの50年も多少の問題が生じるだろうが、日韓両国がベストフレンドになれるよう、一緒に努力しましょう」と新たな協力を呼びかけると、会場には大きな拍手が響きわたった。

 ことしの「開天節」祝賀会場の華やいだ空気の中で、最悪だった1年前の日韓関係を考えた。去年は、日韓国交50周年という記念すべき年にもかかわらず、数少ない形式だけの記念行事に終わり、国民相互にわだかまる反日感情と嫌韓感情は、これまでになく高まっていた。10月初旬の「開天節」の頃は、懸案だった慰安婦問題の打開を図ろうにも、首脳会談の糸口さえ見出せず、そのうえに、産経新聞加藤記者の裁判が大詰めを迎えていた時期で、判決次第では日韓関係のさらなる悪化も懸念されていた。
年末ぎりぎりに開かれた日韓外相会談で示された、慰安婦問題に関する日韓双方の決断が、関係改善の契機になったことは間違いない。しかし、産経新聞加藤記者への無罪判決がなければ、外相会談は実現しなかっただろう。

 私は、10月19日午後2時からの論告求刑公判をソウル中央地裁で取材したが、6時間に及んだ審理は、検察官が懲役1年6カ月を求刑して終了した。最後まで毅然(きぜん)とし、一貫した被告の主張を、正確に裁判官に伝えられない稚拙な法廷通訳と、韓国の国内法の厚い壁に、傍聴席には徒労感が充満した。われわれ日本人取材陣の関心は、1審判決の段階で執行猶予が付くか否かに移っていた。
ところが、10回に及ぶ公判に1年2カ月を要し、判決予定日が1度延期された末、12月17日に言い渡された結論は、劇的な無罪判決だった。当初の判決言い渡し期日が先送りされてから、11月2日にソウルで行われた日韓首脳会談を契機に、政府間で続けられた関係改善への努力が実を結んだかたちだ。加藤記者自身も「かろうじての無罪判決」と語ったように、4時間に及ぶ判決理由を聞いていても、最後の主文を聞くまでは無罪の確信を持てない、際どい判決だった。
そして、日韓間の当面の懸案だった慰安婦問題は、この無罪判決の確定から6日後の12月28日、ソウルで開かれた日韓外相会談で「最終かつ不可逆的に決着させる」と明記した合意文書が交わされた。こうして、慰安婦問題と産経裁判で停滞していた日韓外交は、新年に向けてようやく動き始めたのだった。

 9月7日にラオスのビエンチャンで行われた日韓首脳会談の冒頭、安倍首相と朴槿恵(パク・クネ)大統領が握手の際に交わした、にこやかな表情が、ゆっくりと前進を始めた日韓関係を象徴する。
日韓両国が親密だった2004年当時、小泉総理と盧武鉉大統領の首脳同士が、毎年相互に訪問する「シャトル外交」が展開されていた。きっかけは、世界が注目した日韓共同開催の2002年W杯サッカー大会の成功だった。その結果、国民同士の交流が拡大し、日本国内では爆発的な韓流ブームが巻き起こっていた。
それにしても、就任以来3年8カ月もの間、大統領訪日の環境が整わない現在の日韓関係は異常だ。2012年8月に、当時の李明博大統領が竹島に上陸して以来、領土・歴史・慰安婦などの日韓間の複雑な懸案が表面化し、国民感情が急速に冷え切った。
大統領就任から、すでに3年8カ月が過ぎてしまった朴槿恵大統領には、権力を行使できる残り時間が限られている。年が明ければ、12月の大統領選挙に向けて、夏から政治の季節が熱を帯び、現職大統領への忠誠心は急速に失われていく。それを韓国では「レームダック」という。もはや、大統領に残された時間は1年を切っている。

 朴槿恵大統領の初来日が実現するのは、日本が議長国となって、早ければ年内にも開催される第7回日中韓サミットの機会になる。しかし、第5回までは毎年開催されてきたものの、去年11月にソウルで開催された第6回日中韓サミットは、議長国の韓国が3年半をかけてようやく開催にこぎつけたものだった。3カ国が持ち回りで毎年開催するのが原則だが、日韓と日中の悪化した2国間関係が障害になり、3年以上もサミット開催に向けた日中韓の足並みがそろわなかった。
日本での日中韓サミットの年内開催には、中国の李克強首相の訪日意志が焦点になる。しかし現在、外交安保の分野で、中国は日韓両国との間に多くの懸案を抱えている。日本とは、南シナ海での海洋進出を糾弾する日本の外交攻勢に、中国は猛反発している。また韓国とは、韓国への高高度防衛ミサイル(THAAD)配備に中国が猛反対している。さらに、日韓間の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)締結協議に対して、中国は強硬な反対姿勢を貫いている。今のところ、中国の出方は未知数だが、朴槿恵大統領の初来日が、李克強首相の動向に左右されることは明らかだ。
北朝鮮の核・ミサイル開発脅威が増大している中、本来はこうした状況でこそ、日中韓サミットが首脳同士で虚心坦懐に話し合う、絶好の場になるべきなのだが。

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